バンコク クライシス


 2  6月15日 バンコク


 祐二はビールを飲んだ後、決しておいしいとは言えない機内食を食べ、ビールをもう一杯飲み、いつのまにか寝ていた。

 日本時間の午後5時前、タイ時間の午後3時前、有沢祐二を乗せたTG623便は順調にバンコクを目指している。やがてゆっくりと高度を下げ始め、眼下には赤色の大地と、ところどころに緑が見え始めた。
 祐二は腕時計を2時間戻し、タイ時間に合わせた。

 さらに高度を下げたTG623便は眼下に豊かな緑をたたえた田園風景をみながら、さらに高度を下げていった。
祐二は熱帯の燃えるような緑に目を奪われていた。

 3時20分。
TG623便はタイヤのスリップ音を立てて、スワンナプーム空港にランディングした。ランディング後、TG623便はゲートに向かい進む。祐二は英語と日本語、そして何を言っているのか分からないが、やけに耳に心地の良いタイ語のアナウンスが流れると、バンコクに到着したことを実感する。

 定刻の15分前、3時20分にTG623便はゲートに到着した。


 祐二はバンコク、スワンナプーム空港に降りたった。
スワンナプーム空港は2006年秋に開港した空港であり、タイ語で黄金の土地を意味する。

 スワンナプーム空港は巨大で、そして綺麗であった。祐二のタイのイメージはこのスワンナプームでもろくも崩れていた祐二のイメージの中のタイはあくまで発展途上の国であったのだが・・・スワンナプーム空港は完全な先進国であった。

 祐二はいわゆる歩く歩道に乗り、かなりの距離を歩きパスポートチェックを受ける。
 ここスワンナプーム空港の歩く歩道の壁面には麻薬チェックのセンサーがついており、ほぼ麻薬を持ち込むのは不可能になっているらしい。

 祐二は荷物をとって、空港の外へ出る。
暑い。いや熱いといったほうがいいだろうか。
雨期のねっとりと絡みつくような風が祐二の体をゆっくりと吹き抜けていった。
祐二はマイルドセブンライトに火をつけ、深くバンコクの暑い空気とともに紫煙を吸い込んだ。
祐二はもともと暑いのは好きではないが、なぜかこのバンコクの暑さがこの時は好きになっていた。

 インターネットで調べたとおり、4Fの出発ゲートに向かいタクシーを拾う。出発ゲートからは空港税をとられずに済むらしい。
 タクシーに乗った祐二は運転手にメーターでスクンビットへ行ってくれるように英語で交渉した。
意外にすんなりと運転手は了解してくれて、タクシーはスクンビットへ向かって走り出した。

 タクシーの中から見るバンコクは予想外に大都会であった。
整備された高速道路、行きかう車は日本車がほとんどで祐二の乗っているタクシーもトヨタであった。

 45分後、スクンビットのホテルに着いた祐二はタクシー代とチップあわせて250Bhtを払い、タクシーを降りる。

 ここスクンビットは観光客、タイ駐在ビジネスマンに人気があるエリアである。祐二は白人、アラブ人、インド人が意外に多いことに少し驚いた。
 祐二はバンコクの都会の洗練された建物と、路地の屋台のギャップにここバンコクがまさにアジアであるのに改めて実感した。
 そして、何よりも驚いたのがどこに向かっているのかは知らないが、おそらく夜の仕事の出勤前の女の子のスタイルのよさであった。