バンコク クライシス


 4  6月15日夜 バンコク


 祐二はナナプラザを正面に見ながら左からゆっくりと歩きだす。

ピンク、黄色、青、赤のネオンが煌いている。というよりもけばけばしく光っている。どの店も呼び込みがうるさい。中には手を引っ張って、中に連れ込もうとするやからまでいる。呼び込みは入り口のカーテン、黒い暗幕を開け、中に誘おうと必死である。

 祐二は好奇心で呼び込みの言われるまま、ある店の中に足を踏み入れる。店内は暗く、目が慣れるまで多少の時間を要した。
中は約1メートル50センチほどのステージがあり、その上でビキニ姿の女性、ダンサーが6人ほどが音楽にあわせて踊っている。客は4人。白人、いわゆるファランが3人、アジア系が1人である。客の4人はいずれも単独らしくステージを囲むように四方バラバラに座っている。
 ステージ上で踊っている女性はやる気のなさが態度に表れているのか、ダンスも適当という印象を祐二は受けた。

 ナナプラザの真ん中のスペースにはバービアがあり、ほとんどがテレビでプレミアリーグの試合を放送している。 

祐二はこの店を出てさらに左周りに進んで行く。
ナナプラザを正面からみて、ちょうど一番右奥にさしかかったところに水着姿の上にショートのジーンズ生地のホットパンツをはいた2人の綺麗な女性がいる。
 祐二は思わず英語で「あなたたちはどこの店で働いているの?」と聞いた。
彼女たち2人は、はにかんだ笑顔を浮かべながらRAIBOW2とピンクのネオン管を指さす。お礼を言って、祐二は中を覗いて見る。
 中に足を踏み入れると、祐二は今まで見たことのない衝撃を受けた。
まず、日本ではありえない光景が目の前には広がっていた。先ほど覗いたGOGOBARとは違い、ステージ上で踊っている女の子は40人ほど。白いビキニにブーツを履いた女の子たち。
客はパッと見では数え切れないほどであり、ファランが半分アジア系半分。そのアジア系の半分は日本人であろうか?なにせ活気に満ち溢れている。

祐二は店員のペンライトに導かれるままに入って右奥のひとつだけ空いている席に案内された。

 すぐに店員が注文を聞きに来る。祐二はハイネケンを注文する。
ビールを待っている間、ステージを見ると白いビキニにブーツを履いた女の子が棒につかまったりしながら、腰をくねらせ、ユーロビートのリズムにあわせて踊っている。
 1分ほどで発砲スチロールの容器にはいったハイネケンを店員が持ってくる。この発砲スチロールはビールを温めさないためのものである。

 祐二はしばらくステージ上の女の子を眺めながら、ちびちびとハイネケンを飲んだ。
女の子は日本の文化が影響を与えているのか・・・巻き髪の女の子までいる。
踊っている女の子はスタイルもよく、なにしろ日本人好みの女の子が多いように祐二は思った。

 たまに店員が「ペイバー」「チップ」なんか言いながらよって来るが祐二は気にせず、無視を決め込みビールが空になるまでステージを眺め続けた。

 祐二は女の子を連れて帰ることも考えたが、まだタイに来て初めての夜で、まして手持ちのBhtが少ないこともあり、その後、祐二はビールを2本飲んでRAINBOW2を後にした。

ビール3本を飲んで役400Bhtである。日本円で約1200円。この金額でビキニ姿の綺麗な女の子を眺めながら、ビールを3本のんで1200円である。

 祐二はホテルへ歩いて帰る時も興奮冷めやらぬ状態であり、ホテルでもなかなか寝付けなかった。

祐二にとってのバンコクの初日は興奮冷めやらぬなか夜も更けていった。